十和田湖龍女考  序


青森県おいらせ町に生まれ、おいらせ川とその源流・十和田湖を

格別に自分に親しい景色とし、その自然と神秘を心の養分として育った。


だからだろうか、文化人類学を学び現在の十和田湖神話を読んだ際、

強烈な違和感と嫌悪感を覚えたのをはっきりと覚えている。


山の禁忌を犯した狩人の男が呪いのため、龍となり十和田湖にすみついたが、

お坊さんに倒され、そのお坊さんが代わりに龍と成り今も十和田湖を守っているというのだ。


優しくも近寄りがたく、神秘的で女性的、という私の心象とも全く異なるし、

何より人類学では、水源と川は女神の領域で、その女神は美しい蛇身と相場は決まっている。

おっさんの龍な筈がない、と十和田湖を訪れる友人達に愚痴ったものだった。


先日、十和田湖マルシェに参加し、慰労の宴で例の如く愚痴ると主催者のTeppei氏は

こともなげに「十和田湖の本当の神様は龍女ですよ。そう古い文献に書いてます。」と

教えてくれ、「霊山十和田」という十和田市の文化出版の希少本をポンと気前よくくれた。


果たしてそこには最も古い十和田湖縁起について記されており、

龍女が若く美しい十和田湖先住の女神として描かれていたのだ。


全身を駆け抜けるような喜びの中、これまで自分の中に断片的に存在した、

北東北の縄文エミシに関わる細切れ情報が体系的につながったのを感じた。


岩手・大船渡の尾崎神社(古名・理訓許段りくこた神社・アイヌ語で上の村の意)

と、そこにご神体として祀られてきたアイヌ神具「イナウ」。

リクコタ神社上流、姫神山の瀬織津姫。

おいらせ町気比神社の大樹信仰と山駆けの神事。

霊山十和田湖を中心とした四方の古道と四つの川。

都母という古い北東北のエミシ地名と、十和田湖の噴火。

日本の中で、何故か南部地方に伝わる、堅果雑穀粉食文化と

その食文化遺産たる、南部せんべい。

北東北を埋めるように存在する、数多くのアイヌ語由来の地名。


アイヌの開闢神話と生き生きとした始まりの女神達こそが

失われた古代文化の縦糸だったのだ。


雑多な断片情報が、龍女を中心に、一つながりとなった時、

広大で深い、縄文エミシの母系贈与社会と女神信仰の図案が示される。


暗く静かな新月の、ひめやかなる湖面から

龍女がふたたびほほえみをたたえ、

浮かび上がってくるような啓示を受け、

これから何回かに分けて、縄文エミシの失われた価値体系という

織物作製の下準備に取り掛かってゆきたいと思う。


いささか長文、遅筆になるであろう事は、予めご容赦願いたい。

五代目店主 拝

↓次回

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Kawagoe Nambu Sembe Store

明治六年創業。日本最古の南部せんべい店です。材料はすべて国産小麦、瀬戸内海塩を使用しています。製法は昔ながらの手ごね、石窯手焼きの手作りの南部せんべいです。ふんわり手ごねした小麦を、日本最大級の石窯で焦げる手前で手焼きする事で、硬さの中に柔らかさのある「しょりしょり」食感と、小麦・胡麻・落花生など材料の香りを最大限に引き出した南部せんべいにこだわっています。

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